時代遅れの親指AF

2018/3/26:発行
2019/3/31:更新
2021/8/15:更新

目次


  1. はじめに
  2. コンティニュアスAFの状態を維持し易い?
  3. コンティニュアスAFでシャッターチャンスに強い?
  4. フォーカスロックが楽になる?
  5. 複数枚同じ写真を撮るのが楽?
  6. 置きピンが楽にできる?
  7. 三脚撮影も楽?
  8. コンティニュアスAFでもAFロックができる
  9. まとめ

はじめに


本書をご覧頂く方でしたら、何方も親指AFを良くご存じの事でしょう。

シャッターボタン半押しの代わりに、親指でAFを起動する、アレです。


Nikon D850のAF-ONボタン

ちょっと考えると、人差し指1本でAFとシャッターの両方を操作できるシャッターボタン半押しAFの方が便利な気もします。

ところが、プロが使っているとか、中級機以上のデジカメの背面にAF-ONボタンがある事や、ネットで親指AFを礼賛する記事が目立つ事から、真似して使っている方もいらっしゃる事でしょう。

ですが、本当に便利なのでしょうか?

という訳で、親指AFにネットで言われる様なメリットが本当にあるのどうか、じっくり検証してみたいと思います。

なお本書の最後に、親指AFとシャッターボタン半押しAFの本質的な違いをお伝えしますので、楽しみにしておいて頂ければと思います。


1. コンティニュアスAFの状態を維持し易い?


先ず親指AFのメリットの一つとして言われているのが、コンティニュアスAFにおいて、シャッターボタンを半押しした状態を維持するより、AF-ONボタンを親指で押し続ける方が楽だという説です。

ですが、この主張にはどうしても納得できません。

なぜならば、人差し指でシャッターボタンを軽く押し続ける事は、何ら難しい事はないからです。

実際その状態で10分でも20分でも維持していて、何の問題も苦痛もありません。

一方親指AFの場合、親指が自然に添えられる位置より上に位置するAF-ONボタンを、長く押し続けるのはかなり大変です。


Nikon D850のAF-ONボタン

おまけにその状態で、シャッターボタンにも指を添える必要があるのですから、なお不便です。

更にカメラを片手持ちて撮影しようとすると、親指で背面のボタンを押し続け、さらにタイミング良くシャッターボタンを押すのは至難の技と言えます。

という訳で、親指AFの方がコンティニュアスAFの状態を維持し易いというのは、どうみてもコジツケと言わざるを得ません。


2. コンティニュアスAFでシャッターチャンスに強い?


2つ目のメリットは、親指AFの方が、同じくコンティニュアスAFにおいてシャッターチャンスに強いという主張です。

その理由は、AF動作とシャッターを切る動作を分離して行なえるため、ピントが完全に合っていなくてもレリーズすることができるからだそうです。

これも明らかに変でしょう。

何故ならば今どきの中高級デジタル一眼の場合、コンティニュアスAFにおいてレリーズ優先かピント優先かを選択できる様になっているからです。


EOS 7D Mark IIのレリーズ優先とピント優先の選択画面

ですので、シャッターボタン半押しAFでも、ピントが完全に合っていなくてもレリーズすることができるのです。

またそういった選択機能のない入門機や一昔前のデジカメの場合、コンティニュアスAFにおいては元々レリーズ優先になっており、シャッターボタンを押せばいつでもレリーズ可能なのです。

ですので、これについても全く根拠の無い話と言えます。


3. フォーカスロックが楽になる?


3つ目のメリットは、AF-S(ワンショットAF)においてフォーカスロックが楽になるというものです。

フォーカスロックとは、ある被写体にAFでピントを合わせた状態を維持する事を指します。

シャッターボタン半押しAFの場合、シャッターボタンを半押してピントが合った直後がまさしくその状態です。

親指AFの場合、AF-ONボタンを押し続けるとこの状態になります。

どうなんでしょう?

シャッターボタンを半押しするだけと、親指でAF-ONボタンを押し続けるのと、どちらが楽でしょう。

誰がどう考えてもシャッターボタン半押しAFの方が楽でしょう。


4. 複数枚同じ写真を撮るのが楽?


4つ目のメリットは、フォーカスロックで複数枚同じ写真を撮るのが楽になるというものです。

この場合、前述の3件と違いしっかりとした根拠がありますので、被写体が測距点に掛かっているかどうかに分けて考えてみます。

①被写体が測距点に掛かっていない場合

先ず以下の様に被写体が画面の端に寄っていて、被写体が測距点に掛かっていない状態で、同じ写真を2枚撮るとします。


シャッターボタン半押しAFの場合、シャッターボタンを全押しした直後に半押し状態に戻れないため、以下の様に8行程が必要になります。

①ファインダーの中央を被写体に向ける
②シャッターボタンを半押ししてピントを合わせる
③半押ししたまま構図を変える
④1枚目のシャッターを切る
⑤ファインダーの中央を被写体に向ける
⑥シャッターボタンを半押ししてピントを合わせる
⑦半押ししたまま構図を変える
⑧2枚目のシャッターを切る

一方親指AFの場合、以下の様に6行程で済みます。

①ファインダーの中央を被写体に向ける
②AF-ONボタンを押してピントを合わせる
③AF-ONボタンを押したまま構図を変える
⑤シャッターを切る(1枚目)
⑥シャッターを切る(2枚目)

2枚の撮影では2行程の差ですが、更に3枚、4枚となるとその差はどんどん大きくなりますので、確かに親指AFの方が有利です。

ですが、今時そんな撮り方をするのでしょうか?


②被写体が測距点に掛かっている場合

確かに下にあります様に一昔前の一眼レフカメラでしたら、測距ポイントが少なく尚且つそれらがファインダーの中央付近にしかなかったため、被写体が画面の端に寄っている場合、フォーカスロックを使ってカメラの向きを変えなければなりませんでした。


測距点が9ポイントしかなかったフィルム時代の初代EOS 5D

ところが最近のミラーレスカメラでしたら、下にあります様にほぼ画面全体がAFエリアと言っても良いほどです。


SONYのα7 IIIのAFエリア

にも拘わらず、いちいちフォーカスロックで撮る必要があるのでしょうか?

そしてもう一つ重要な事をお伝えすると、これらのAFセンサーは昔から最も近距離にある被写体に合焦する様に設計されている事です。

このため、上の写真の様に被写体より手前に物が無く、その被写体に測距ポイントの一つでも掛かっていれば、何もフォーカスロックを使わなくても必然的に被写体にピントが合うのです。

と言う事は、シャッターボタン半押しAFの場合、①構図を決める⇒②シャッターボタンを全押しする⇒③シャッターボタンを全押しするのたった3行程で、2枚のピントの合った写真を撮れるのです。

各メーカーにおけるデジカメの測距ポイントの増加と測距エリア拡大の目的とは、一重(ひとえ)に狙った構図のままで被写体にピントを合わせるためなのです。

当然ながら100%これで対応できる訳ではありませんが、わざわざそれらの進んだ機能を無視して、親指AFにこだわる必要はないでしょう。

そしてもう一つお伝えしたい事があります。

1枚目のAFでピントを合わせて、後は同じ距離設定で写真を撮り続けるのと、毎回AF動作をさせて撮るのとではどちらが良いでしょう。

前者の場合、もし1枚目が完全にピントが合っていれば、その後の写真も全てピントがあっている事になります。

カメラに限らずあらゆる工業製品はランダム誤差が生じますので、万一1枚目のピントが甘ければ、以降の写真は全て同じ写真になってしまいます。


ピントのバラツキは正規分布する

いっぽう毎回AF動作を行なう場合は、1枚ごとに僅かなバラツキは生じるものの、全ての写真のピントが甘くなるというリスクを大幅に減らす事ができます。

以上の理由から、今どきのカメラであれば、複数枚同じ写真を撮る場合においても、毎回AF動作を行なうシャッターボタン半押しAFの方がピントが合う確率が高まると言えます。

特に止まっている様に見えて、実は僅かながら前後左右に揺れている人物撮影なら尚更です。


5. 置きピンが楽にできる?


親指AFの5つ目のメリットが、置きピンが楽にできる事(だそう)です。

置きピンとはご存じの通り、動いている被写体にピントを合わせるのは難しいので、事前に狙った場所にピントを合わせておき、動いている被写体がその場所に来たタイミングでシャッターを切るという、昔ながらの撮影方法です。


その昔、動いている被写体を撮るのには置きピンが必要だった

この場合親指AFでしたら、狙った場所にファインダーを向けてAF-ONボタンを押し、あとは被写体が来たらシャッターを押すだけで済みます。

一方シャッターボタン半押しAFでしたら、同じ様に狙った場所にファインダーを向けて、シャッターボタン半押し、被写体が来たらシャッターを押します。

この場合、両者に大差は無いのですが、親指AFでは親指を離してもピント位置が維持されますので、シャッターボタン半押しを維持するより多少楽かもしれません。

ですが、今時置きピン撮影なんかやりますか?

もともと置きピン撮影とは、マニュアルフォーカス時代に多用された手法です。

何しろ人の手でフォーカスリングを回しながら動いている物にピントを合わせるのは、至難の技だったからです。

ところが最近のコンティニュアスAFを搭載したカメラでしたら、演算速度の向上や動体予測アルゴリズムの改善により、非常に高速な動きや、急激な速度の変化、障害物による一瞬の遮り等々、さまざまな条件でも被写体をかなりの確率で捉える事ができる様になっています。

にも関わらず、それらの優れた機能を無視して、旧態依然とも言える置きピン撮影をする必要があるのでしょうか?

という訳で、動体撮影においてもシャッターボタン半押しAFの方が優位性が高いと言えます。


6. 三脚撮影も楽?


6番目のメリットは、三脚を使った場合(だそう)です。


三脚を使った風景写真

親指AFならシャッターボタンを押しても毎回AFは作動しないので、AFモードに設定したままレンズのフォーカスリングを回してピントを合わせ、そのまま何度でもシャッターを押すことが可能になります。

ですが、これもどうなのでしょう?

例えば三脚を使った風景写真の場合、ピントを固定したいのでしたら(敢てAFを使わず)MFで撮影するのが一般的ではないでしょうか。

だったらシャッターボタンを押してもAFは動作しないので、何も問題ありません。

また三脚を使った野鳥や鉄道写真でしたら、コンティニュアスAFでの撮影の方が余程歩留りが良くなると思われます。

という訳で、これについても親指AFの優位性は見出せません。


7.コンティニュアスAFでもAFロックができる

2018/3/26:追記

下はキヤノンのHPに載っている、”野鳥撮影には、絶対的に便利な親指AFを使いましょう”なる記事の抜粋です。


内容を要約すると、コンティニュアスAFにおいてシャッターボタン半押しAFのままで構図を変えると、ピントが合う位置が変わってしまうが、親指AFにすれば、AF-ONボタンをON/OFFする事で一時的にAFロックが使える事を、メリットとして上げています。

さすがキヤノンだけあって、これまでの指摘より余程説得力があります。

確かにコンティニュアスAFにおいて、親指AFならAFロック可能ですが、シャッターボタン半押しAFではそれはできません。

ですが、これもどうなのでしょう。

そもそもこの様に動いている野鳥を、中央1点AFのコンティニュアスモードで撮り続けるでしょうか?

例えば、下にある一眼レフ(EOS 6D MarkII)の測距エリアでしたら、AFエリアを拡げて撮るのは間違いないでしよう。


EOS 6D Mark IIの測距エリア

また最近のミラーレス機でしたら、追尾優先AF(ロックオンAF)も搭載していますので、動き回る鳥を自動で追尾する事も可能です。


ソニーαシリーズのリアルタイムトラッキング

更には最新のミラーレス一眼でしたら、犬猫鳥の顔まで認識してくれます。

と言う訳で、これについても親指AFの絶対的な優位性とは言えない、というのが本書の結論です。


まとめ


以上をまとめると以下の様になります。

# 項目 結果
1 コンティニュアスAFの状態を維持し易い? 限りなく根拠が薄い
2 コンティニュアスAFでシャッターチャンスに強い?
3 フォーカスロックが楽になる?
4 複数枚同じ写真を撮るのが楽? AFエリアが広ければ差は無し。
むしろ毎回AF動作した方が、ピント外れを量産するリスクを軽減できる。
5 置きピンが楽にできる? 動体の補足精度が上がった今となっては、置きピン撮影など殆ど行なわない。
6 三脚撮影も楽? 風景写真ならばMF、野鳥や鉄道写真なら主にコンティニュアスAFを使うので、シャッターボタン半押しの方が楽
7 コンティニュアスAFでもAFロックができる 確かに、シャッターボタン半押AFでは、コンティニュアスAFにおいてAFロックはできない。
ただしコンティニュアスAFでAFエリアを1点にする事は極めて稀である事から、絶対的な優位性とは言いがたい。

上の表を見て、よもや明日から親指AFを使ってみようと思う方はいらっしゃらないでしょう。

また上の表を見てもう一つ気付く事があります。

親指AFにおける唯一無二のメリットは、シャッターボタン半押しAFと違って、コンティニュアスAF時にもAFロックができるという事です。

このためもしコンティニュアスAF時にAFロックを使った事も、使おうと思った事もなければ、シャッターボタン半押しAFにするべきだという事です。

またもしコンティニュアスAF時にAFロックを使いたいが故に親指AFを使っている方がいるとしたら、AF-ONボタンをAFロックボタンにした方が余程賢明ではないでしょうか。





時代錯誤の親指AF





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