初期RFレンズに見るキヤノンの先見性
(なぜキヤノンは高価なRFレンズから発売を開始したのか?)

2019/9/27:発行

はじめに


キヤノンファンの期待を一身に担(にな)って登場した、キヤノン初のフルサイズミラーレス一眼EOS R。

ですが、思ったほど市場での人気が盛り上がりません。

その理由はいくつかあるでしょうが、一つには同時に発売されたRFレンズの大半が、高価で大きくて重い大口径のL(Luxury)レンズであるというのは、何方も異論の無い所だと思います。


EOS Rと共に発売された高価で重い赤い鉢巻きのLレンズ(左3本)

もしEOS Rを拡販したいのであれば、もっと中庸なレンズから発売した方が、断然有利です。

後ほど詳しくご説明しますが、ソニーのフルサイズミラーレス一眼であるα7シリーズにおいては、比較的安い価格帯のレンズからリリースされました。


初代α7のキャッチコピー

またニコンのフルサイズミラーレス一眼であるZシリーズも、同じ様に安価なレンズから発売を開始しています。


Nikon Z 6、Z 7と共に発売されたZマウントレンズ

にも関わらず、なぜキヤノンは高価な大口径レンズから開発を進めたのでしょうか?

今回はその謎に迫ってみたいと思います。


ハイアマチュア層の囲い込み


考えられる理由の一つとしては、キヤノンとしては先ず自社ユーザーのプロを含めたハイアマチュア層を囲い込むために、いきなり高級レンズから発売した、という考えもあるかもしれません。


確かに、既存のキヤノンユーザーにとってはこれらのレンズの発表は朗報でしょう。

またこの様なレンズが発売されたとなると、いつか機会があれば(他社機ではなく)キヤノンのミラーレス一眼に買い替えようという気になります。

ただし、いきなりEOS Rに乗り換えるとは到底思えませんので、これが真の理由とは思えません。

となると、何か別の深謀遠慮がある様な気がします。

と思いつつ月日が流れ、ようやく一つの結論に至りました。

それを知ると、他社と異なるキヤノンの先見性に感心した次第です。


初代α7の蹉跌


その結論をお伝えする前に、先ほどお話させて頂いたソニーのα7シリーズについて触れさせて下さい。

初代α7が発売されたのが2013年の11月で、既にお伝えしました様に同時に発売されたレンズはZEISSブランドもありましたが、標準ズームレンズを含め比較的安価なレンズ構成でした。


初代α7と標準ズームレンズ(FE 28-70mm F3.5-5.6 OSS)

そしてその後五月雨(さみだれ)式に発売されたレンズは、下のロードマップの様に同じくごくごく一般的な単焦点レンズやズームレンズです。


FEレンズのロードマップ

そして上のロードマップの右下にある、ソニーファン待望の大口径単焦点レンズが、2016年4月に発売されたFE 85mm F1.4 GM(SEL85F14GM)です。

初代α7が発売されてから約2年半が経過していますので、恐らく初代α7の開発当時、このレンズは影も形も無かったのは間違いないでしょう。

ですので、このレンズは初代α7の開発時期には、現物を使った全く評価されていなかったのです。

実は本サイトでもこのレンズを入手して、初代α7 Sに装着して使ってみた事があるのです。

それでどうだったかと言うと、以下の様に全くもって使い物にならなかったのです。(詳細はこちら

AFの動作音がうるさい
AFがとんでもなく遅い
AFでピントが合わない
AFにフォーカス優先が無い
まともに使えない瞳AF
解決策の無いAF性能
露出がバラツク
カメラがハングアップする

すなわち、図面段階でいくら検討を重ねても、現物での評価が行われないと、予期せぬ問題が多数発生するという訳です。

特に初代α7は、ソニー初(世界初)のフルサイズミラーレス一眼ですので、新規の問題が発生する可能性は実績のある一眼レフの比ではありません。

またご存知かもしれませんが、初代α7やα7 Rにおいては、レンズマウントの爪がプラスチックのままだったのです。


サードパーティーから売り出されたα7用のマウント強化キット

恐らく当時NEXと呼ばれていたAPS-Cサイズミラーレス機の爪を流用していたのでしょう。

おまけに初代α7のマウント部は、指で押すとベコベコへこむと失笑を買ったものです。

重いフルサイズ専用の大口径レンズを早期に開発して評価していれば、こんな事は防げたかもしれません。

まとめますと、全く新規のカメラシステムを立ち上げるのに、中庸なレンズから開発を進めると、本体の性能がその後販売される難易度の高いレンズの特性に追い付けないという事です。


キヤノンの先見性


ここまで述べれば、もう細かくご説明する必要はないでしょう。

キヤノンが難易度の高い大口径レンズから開発を開始したのは、EOS R(及びRFマウントシステム)にその後発売されるであろう全レンズに問題なく対応できるだけの性能と拡張性を持たせるためだったのです。

推測ですが、大口径レンズの代表格としては、AF用レンズ群が重い50mm F1.2だけで十分だったのかもしれないのを、マウントの強度や重量級レンズのグリップ性を保証するために更に重いRF 28-70mm F2 L USMを初っ端に開発したのかもしれません。


大口径ズームレンズのRF 28-70mm F2 L USM

キヤノンのインタビュー記事によれば、RFマウントのフランジバックを20mmに設定したのは”強度を確保するため”とありますので、この寸法決定に本レンズが少なからず貢献したのは間違いないでしょう。

また手振れ補正レンズを搭載した標準ズームレンズのRF24-105mm F4 L IS USMはEOS Rを拡販するため、RF35mm F1.8 MACRO IS STMはその後発売された廉価版であるEOS RPの拡販用として追加されたのでしょう。

ただしこれも、したたかに考えられての事とも言えます。

これらのレンズの特徴をマトリックスにすると、以下の様になります。

レンズ 質量 AF駆動 手ブレ補正駆動
RF 28-70mm F2 L USM 超重い 超重い 無し
RF50mm F1.2 L USM 重い 重い 無し
RF24-105mm F4 L IS USM 重い
RF35mm F1.8 MACRO IS STM 軽い 軽い 軽い

これをご覧頂きます様に、この4本のレンズを評価すれば、RFマウントの強度、AF性能、手振れ補正性能を一通り評価できる事になりますし、それぞれのレンズを装着した場合の電力使用量も測定できます。

おまけにF1.2のレンズもあるので、開放時のAF性能やら光学性能も確認できます。

確かにマウントアダプターを使えば、従来のEFレンズ群を使って評価できるでしょうが、何と言っても今後数十年使われる新マウントですので、ここまでやってでも早い段階で新システムのバグを抽出したかったのでしょう。

という事は、今後発売される中庸レンズは、新規問題が殆ど潰されている事から、速やかに市場に投入されていくと予想されます。

もしかしたら今後のRFレンズは、我々が思っている以上の早さで拡充されるのではないでしょうか。

そう言えば、ニコンにおいても、いきなり58mm F0.95と殆ど売れないだろうと思える重くて明るいレンズを開発した理由も頷(うなづ)けます。


Nikon Z7と NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct

ただしこちらはマニュアルフォーカスレンズですので、AF可能な大口径レンズが出たとき、α7シリーズの二の舞にならないか少々不安が残ります。


まとめ


それではまとめです。

①キヤノンが初期RFレンズに高価で重い大口径レンズを積極的に投入したのは、自社のハイアマチュア層を囲いこむためという考えもあるが、それが真の理由とは思えない。

②キヤノンがそうした理由は、新規問題が発生し易い難しいレンズを早期に立ち上げる事で、早い段階でRFマウントシステムの問題点を抽出して、抜本的に解決させるためと考える方が妥当である。

③実際ソニーのα7シリーズにおいては、難易度の高いレンズを後回しにしたため、この問題が表面化した。

④このキヤノンの対応によって、今後のRFレンズの開発ペースは他社より一段と早くなると期待される。


もしこの推論が正しいとしたら、さすがキヤノンと思うのですが、いかがでしょうか?




初期RFレンズに見るキヤノンの先見性




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