(電子先幕シャッターの弊害を克服する)
EOS RPにおけるボケ欠け回避策
2019/5/17: 発行
はじめに
ご存知の様にEOS RPは、低価格を実現するため、従来のメカ式先幕を電子的な読み取り方式に変えた電子先幕シャッターを採用しました。

EOS RP ゴールドとブラック
電子先幕シャッターとは、レリーズ開始時は電子シャッターで、レリーズ終了時のみメカシャッターを閉じます。
これによって撮影直前にメカ式の先幕を閉じる必要が無いため、シャッターのタイムラグを短くでき、且つメカ式先幕によるシャッターショックを完全になくす事ができます。
さらに電子シャッター特有の、顕著な動体画像のゆがみも防止できます。
ただし弊害があって、高速シャッターで絞り開放で撮影する場合、ボケ像が欠ける事になります。

ボケ欠けの発生し易いEOS RPとRF50mm F1.2L USMの組み合わせ
実際EOS RPの使用説明書にもその旨記載されています。

EOS RPの使用説明書(232頁)
このため実際にEOS RPに現状RFレンズで最も明るいRF 50mm F1.2Lと取り付け、ボケ欠けの程度を調べてみましたので、その結果とボケ欠けの回避策をお伝えしたいと思います。
背景ボケ
先ずは背景ボケから確認してみます。
この場合、光源を1.5m先に置き、一番手前にピントを合わせた状態で撮影します。
そして、絞りをF1.2に固定したまま、ISO感度を変えてシャッタースピードを1段ずつ遅くした場合のボケ欠けの程度は以下の通りです。

上の写真をご覧頂きます様に、1/4000秒の場合かなり顕著なボケが欠けが発生しているのが分かります。
恐らくこの状態で普通の写真を撮ったら、明らかに不自然な画像になるでしょう。(その画像は後ほどお見せします)
また1/2000秒においては、ボケ欠けは無いものの、ボケの下部が暗くなっているのが分かります。
更に1/1000秒においては、かなり良化するもの、まだ下部に僅かながら暗い傾向が残っており、1/500秒でほぼ許容レベルになります。
なお以降の添付写真は、ISO感度の記述を割愛していますが、同じ様にISO感度を25600から800まで変えて撮影しています。
前景ボケ
次に前景ボケ(光源を数十cm手前に置き、無限遠にピントを合わせた状態)ですが、この場合は背景ボケとは反対にボケの上側が欠けます。

画像が小さくて恐縮ですが、ボケ欠けのレベルは背景ボケとほぼ同じで、1/1250秒でまだ僅かに上部が暗い傾向があり、1/640秒で許容レベルになると言った感じです。
背景ボケ大
先ほどの背景ボケは少々小さいので、もっとボケを大きくしたらどうなるか試してみました。
具体的には、光源までの距離を約4mにし、ピントを最短距離にした場合が以下です。

これをご覧頂きます様に、1/640秒が許容レベルとなり光源までの距離を変えてボケを大きくしても、絞りが同じならボケ欠けのレベルは変わらない感じです。
推測ですが、ボケの大きさを変えても傾向が同じという事は、焦点距離の異なるレンズであっても傾向は同じになると思われます。
すなわち、仮に85mm F1.2のレンズで同じ検証を行っても、1/4000秒で同じ程度のボケ欠けが発生し、1/500秒程度でそれが許容レベルになるという事です。
絞りF2.0の背景ボケ大
ここまで分かってくると、次に絞りを変えたらどうなるか知りたくなってきます。
と言う訳で、絞りをF2.0にした結果が以下になります。

これをご覧頂きます様に、絞りを1段絞るとボケの大きさは1/1.4倍(71%)になりますので、上の様にボケは小さくなります。(この場合、正確にはF1.2をF2.0へと1.5段絞ったので60%)
そして、1/2000秒で良化し、1/1000秒でほぼ許容レベルになっています。
すなわち絞りを約1段絞る事によって、シャッタースピードで1段分ボケ欠けのレベルが良くなっています。
絞りF2.8の背景ボケ大
では、同じ様な良化が絞りをF2.8にして起きるか確認してみます。
その結果が以下です。

これをご覧頂きます様に、予想通り1/4000秒で良化し、1/2000秒で許容レベルになりました。
すなわち絞りを1段絞ると、シャッタースピード1段分ボケ欠けが良化するとの法則がありそうです。
絞りF4.0の背景ボケ大
ついでなので、絞りF4.0も確認しておきましょう。

小さくて見難いのですが、(拡大して見ても)予想通り1/4000秒で許容レベルになりました。
ここまでで言える事
ここまででの検証で、かなりの事が分かってきました。
①先幕電子シャッターによるボケ欠けは、絞りが同じであれば、背景ボケ、前景ボケ、更にはボケの大きさに関わらず、シャッタースピードへの依存度は同じである。
②またこの事から、レンズの焦点距離を変えても同じ様な傾向になると推測される。
③EOS RPの場合、絞りに対してボケ欠けが許容できるシャッタースピードは以下の通りである。
シャッタースピード | ||
---|---|---|
絞り | 許容 | 渋々許容 |
F1.2 | 1/500秒 | 1/1000秒 |
F2.0 | 1/1000秒 | 1/2000秒 |
F2.8 | 1/2000秒 | 1/4000秒 |
F4.0 | 1/4000秒 | 1/4000秒 |
④故に開放値F4.0のRF24-105mm F4Lレンズは何も心配しないで使用可能である。
⑤ただしF2.8以上の明るいレンズを開放で使う場合は、上の表にあるシャッタースピード以内で使う必要がある。
F1.2、1/4000秒の写真
ところで先ほど、”ボケ欠けが発生する条件で普通の写真を撮ったら、明らかに不自然な画像になるでしょう”、とお伝えしました。
という訳で、試しに絞りF1.2、シャッタースピード1/4000秒で昼間に普通の写真を撮ってみました。

EOS RP + RF50mm F1.2L (F1.2 1/4000秒 ISO400)
すると、どうでしょう。
色々撮ってみたのですが、どうやってもボケ欠が明確に分かる写真が撮れません。
もしかしたらシャッタースピードを遅くしたボケ欠けの無い写真と比べれば違いが分かるのかもしれませんが、1枚だけで、しかも点光源(玉ボケ)の無い写真をいくら撮ってもボケ欠けを認識するのはかなり難しい感じです。
キヤノンが良くこの状態で電子先幕シャッターを許可したなたと思っていたのですが、これが理由だったのかもしれません。
すなわち例えボケ欠けの発生する設定で撮影しても、普通の写真を撮る限り、ボケ欠けを認識する事は極めて稀だという事です。
そう思うと、またまたフッと思い付いた事があります。
恐らく電子先幕シャッターを採用したフルサイズミラーレス機は本機が初めてだと思われますが、いきなりキヤノンが市場でボケ欠けを指摘される可能性のあるギャンブルをするとは思えません。
だとしますと、もしかしたらAPS-CサイズのEOS Mシリーズは、既に電子先幕シャッターを採用していたのではないでしょうか?

EOS Mシリーズ(U.S.A.モデル)
その結果、特に市場クレームが無かった事から、フルサイズミラーレス機にもある程度自信を持って投入したのではないでしょうか?
試しに国内とUSAのEOS Mシリーズの仕様書を調べてみましたが、いずれも”電子制御式、フォーカルプレーンシャッター”(CUSAの仕様書にはElectronically controlled focal-plane shutter)としか記載されておらず、その裏は取れませんでした。
でも、その可能性は十分あると思われます。
2019/5/18追記
その後の調査において、初代EOS Mのカタログに以下の記載がありましたので、恐らくEOS Mシリーズは過去から電子先幕シャッターが搭載されていると推測されます。

初代EOS Mのカタログの抜粋
ただし、EOS RPの様なボケ欠けに関する注意書きは一切ありません。
その理由は、APS-Cサイズのボケはフルサイズより小さいのと、EF-MマウントのレンズにF1.2の様な大口径レンズが無いためと思われます。
その後の調査において、初代EOS Mのカタログに以下の記載がありましたので、恐らくEOS Mシリーズは過去から電子先幕シャッターが搭載されていると推測されます。

初代EOS Mのカタログの抜粋
ただし、EOS RPの様なボケ欠けに関する注意書きは一切ありません。
その理由は、APS-Cサイズのボケはフルサイズより小さいのと、EF-MマウントのレンズにF1.2の様な大口径レンズが無いためと思われます。
回避策
そうは言っても、ボケ欠けが発生するのは間違いないので、なんとかそれを回避したいと思われるのは人情でしょう。
下の写真は、(本検証を行う前に)EOS RPにRF50mm F1.2 Lレンズを装着して、絞り開放で撮影したものです。

EOS RP + RF50mm F1.2L USM (F1.2 1/1250秒 ISO100)
これを見ても、ボケ欠けは殆ど気になるレベルではありません。
その理由は、ボケ欠けが目立ち易い点光源(玉ボケ)が無い事と、お気付きの通りシャッタースピードが1/1250秒だからです。
ところで、薄曇りの日とは言え、なぜ絞りF1.2でシャッタースピードが1/1250秒になったかと言えば、実はND4フィルター(光量を1/4に減光するフィルター)を使っていたからです。
日差しがキツイ日に順光で白い壁でも撮れば、F1.2ですとシャッタースピードは1/8000秒以上にも達しますが、現実的には光量を1/8程度にするNDフィルターを使っていれば、晴れた日でもシャッタースピードは(ボケ欠けの目立たない)1/1000秒程度に抑えられるのです。
今回の検証では、F1.2レンズと1/4000秒の使用が、ボケ欠けのチャンピオン条件と言えます。
となれば、ND8のフィルターを使えば、例えF1.2のレンズを開放で使ったとしても、シャッタースピードの上限は1/1000秒以下になりますので、実質的にボケ欠けを防げる事になります。
ですので、もしF2.0のレンズでしたらND4フィルター、F2.8のレンズでしたらND2フィルターを付けておえば本問題を回避できるのです。
ご納得頂けますでしょうか?
まとめ
それではまとめです。
①EOS RPにF1.2レンズを装着して、開放で1/4000秒のシャッタースピードで写真を撮ると、顕著なボケ欠けが発生する。
②ただし点光源の目立つボケがなければ、普通の画像ではボケ欠けを認識するのは難しい。
③このボケ欠けは、シャッタースピードを遅くする、もしくは絞りを絞ると良化し、F1.2の場合1/500秒以下、F2.0なら1/1000秒以下、F2.8なら1/2000秒以下のシャッタースピードで撮れば許容レベルになる。
④上記③のシャッタースピードに対応するため、F1.2のレンズであればND8、F2.0のレンズであればND4、F2.8のレンズであればND2のフィルターを付けておけば、取り敢えず本問題は回避できる。
⑤なおF4.0のレンズであれば、(ISO感度を不必要に上げない限り)本問題は発生しないと思って良い。
こんなまとめで宜しいでしょうか。