デジカメにローパスフィルターは必要だ

2018/3/26

目次


  1. はじめに
  2. べイヤー配列
  3. ローパスフィルターの目的
  4. ローパスフィルターとは
  5. ローパスフィルターの必要性
  6. 高画素撮像素子の場合、なぜローパスフィルターは不要なのか?
  7. 画質の違い
  8. まとめ

はじめに


昨今の風潮として、デジカメのローパスフィルター不要論が台頭している様に思うのですが、いかがでしょうか。


実際ネットで調べると、新聞紙や高層ビルを撮った写真を見比べて、ローパスフィルターが無い方が断然解像度が高いとする記事で溢れています。

またローパスフィルターとは磨りガラスの様な物なので、モアレや偽色が目立たなければ、無い方が良いという記事も多々あります。


偽色の発生した葉っぱ

さらに昨今の高画素対応のデジカメにおいては、ローパスフィルターレスが当たり前の様になってきています。


ローパスフィルターレスのα7R III

ですが、本当にローパスフィルターは無用の長物なのでしょうか?

という訳で、今回はローパスフィルターの有効性についてお話したいと思います。

もしローパスフィルターは無いのに越した事はない、と盲目的に思われている方がいらっしゃいましたら、是非最後までお付き合い頂ければと思います。


べイヤー配列


それでは早速本題に入りましょう。

と言いたい所ですが、その前に単板式の撮像素子で一般的に使われているベイヤー配列についてお話しさせて下さい。


デジカメは撮像素子を1枚しか搭載していない(写真はNikon Z6)

なぜならば、ベイヤー配列の撮像素子は、ハイパスフィルターを使う事を前提に作られていると言っても過言ではないからです。

少々大袈裟に言わせて頂けるのでしたら、ハイパスフィルターレスの写真はウソの画像情報が一杯入っているからです。

なぜそう言えるのか、これからじっくりとご説明したいと思います。

べイヤー配列とは、コダックの技術者だったべイヤーさんが考案した単板式撮像素子に使われる3色フィルターの配列です。


べイヤー配列の3色フィルター

ビデオ機の場合、高級タイプですと3板式の撮像素子が使われるため、この様な配列のフィルターは不要で、3枚の撮像素子に赤緑青の1枚のフィルターを使えば事足ります。


3板式撮像素子の画像処理

すなわち、この3枚の撮像素子を見れば、各画素の3色の色情報が分かるからです。

では撮像素子を1枚だけ使用した場合はどうすれば良いでしょう。

そこで登場するのがべイヤー配列です。

これでしたら、1枚の撮像素子に3色のフィルターが乗っていますので、カラー画像を読み取る事が可能です。

ただし大きな問題があります。

それは、1画素の画像を1色でしか読めない事です。

このためこのままでは、下の写真の様にツギハギだらけの写真になってしまいます。


補間しない場合のべイヤー配列の画像

上の画像は簡易的に作成したイメージ画像なので全く正確ではありませんが、カラーで読み取る事ができても、さすがにこれではカラー写真とは言えません。

だったら、どうすれば良いのか?

1素子が読み取れない他の色情報を、隣りの素子から借りてくれば良いのです。

例えば下の図の様に、上から下に緩やかに濃さの変わる画像があったとします。


元画像

これを1素子256諧調の撮像素子で読ませると、以下の様になります。


元画像を撮像素子で読ませた値

この9個の素子の中で、今回は中央の緑の素子に注目します。

この素子の画像データは、緑の光量が190だという事だけで、赤や青の情報はありません。

ですので赤については、両隣りの光量が160なので、多分中央の素子の赤の光量も160だろうと推測するという訳です。


周囲の画像データから中央のレッドとブルーを推測した値

同じ様に青の光量は、上と下が230と240なので、恐らく235になるだろうという訳です。

これで作成した色が下の画像中央部分で、凡そ周囲と似た色になるのが分かって頂けると思います。


推定値から再現した画像(中央部)

これを専門用語で補間と呼び、各光学機器メーカーで色々工夫を凝らした補間処理が行われています。

さらに、これと同じ処理を全画素において行えば、1枚の撮像素子でもフルカラーが再現できる事になります。

ただし、(毎度の事ながら)これでメデタシメデタシといかない所がミソです。

上記の様に被写体の色が滑らかに変わっていれば良いのですが、例えば急激に色が変わっているとなると、とんでもない事が起きます。

例えば、下の図の様に黒と白のくっきりした像があったとします。


その画像が、先ほどの9個の撮像素子の上に、下の様に結像したとします。


これを前述と同じ方法で補間すると、中央の画素の色情報は以下の様になります。


本来ならば3色とも200になる筈が、赤だけ105という変な値になっています。

数値だけ見てもピントこないかもしれませんが、これを画像(色)にすると下の様になります。


黒と白の境界に発生した偽色(R:105、G:200、B:200の青色)

すなわち、本来白である所に、いきなり全く存在しない水色(偽色)が発生するという訳です。

そんな事許せますか?


ローパスフィルターの目的


お待たせしました。

そこで登場するのが、白馬の騎士ならぬローパスフィルターです。

本来3枚必要な撮像素子を1枚にしたのですから、その弊害である偽色とモアレは大昔から知られており、それを改善するのがローパスフィルターです。

ですので、べイヤー配列を使う以上、ローパスフィルターを使うのは当然の事なのです。

で、そのローパスフィルターですが、低周波成分を通過させて、高周波成分を遮断するフィルターの事です。

低周波とか高周波と言っても良く分かりませんが、簡単に言えば、太くてぼんやりした画像が低周波で、細くてくっきりした画像が高周波になります。


右側の高周波画像を遮断すればするほど、先ほどの偽色もモアレも大幅に低減する事ができます。

ただし上の画像を見ると、そこまで画像をぼやかすのならば、やっぱりローパスフィルターは無い方が良いと思われる事でしょう。

でも、ここからが大事な所です。


ローパスフィルターとは


ではそのローパスフィルターとは、実際にはどんな物なのでしょうか?

良く言われるのが、”磨りガラスの様な物”ですが、本当にそうなのでしょうか?

どこの家の窓ガラスにある表面をザラザラに荒らした磨りガラスと聞けば、恐らく100人中100人がそんな物はカメラには必要ないと思われる事でしょう。

ですが、ローパスフィルターは磨りガラスと全く異なる物なのです。

では一体何かと言えば、2枚の複屈折板を貼り合わせた薄い透明の板なのです。

では、複屈折板とは何なのでしょうか?

馴染みのある鉱物名としては方解石なのですが、この複屈折板に光を通すと、以下の様に1本の光りを2本に分ける事ができるのです。


複屈折板に光を通すと2本に分かれる

この複屈折板の向きを変えた物をもう1枚並べると、以下の様に1本の光を4本に分割する事ができます。


屈折方向の異なる複屈折板2枚に光を通すと4本に分かれる

ちなみに、この2枚の複屈折板を通して物を見ると、確かに磨りガラスの様にボケて見えるのですが、磨りガラスとは本質的に異なるのはご理解頂けたと思います。

ではなぜ1本の光を4本に分ける必要があるのでしょうか?


ローパスフィルターの必要性


そこで登場するのが、先にお伝えしたベイヤー配列です。


ベイヤー配列は4素子で一つの色を正確に把握できる

さて、上の図を見て何が言いたいか、分かって頂けますでしょうか?

もったいぶってしまいましたが、べイヤー配列の場合、(補間せずに)正確に3色の色情報を得るためには、上の4素子を使わなければならないという事です。

ですので、1本の光を4本に分ける事によって、その1本の色の情報を補完する事なく、正確に把握できるという訳です。

これに関連して、興味深い説明図を見つけましたのでご紹介したいと思います。

下はSONYのα7R IIIにおける、ローパスフィルターレスに関する説明図です。


SONYのα7R IIIにおけるローパスフィルターの説明図

この上段の図において、1本の光がローパスフィルターを透過した後、4本に分かれているのが見て取れます。

皮肉な事に、SONYの場合解像度優先でローパスフィルターレスの急先鋒なのですが、何故かローパスフィルターに関する説明図は適切です。

すなわち、ローパスフィルターとは画像を単純にボカしているのではなく、正確には4素子に相当する大きさの像(光)を、4素子に均等に照射して(振り分けて)いるのです。

また、そもそも1画素とは3色の色情報を持ったものを指します。

と言う事は、べイヤー配列の場合、理論上4素子で1画素を構成しているとも言えるのです。

ですので、デジカメで例えば2400万画素と呼ばれている機種の本当の性能は、その1/4の600万画素とも言えます。

だとすると、この場合以下の様に言えます。

ローパスフィルター搭載 解像度を全画素の1/4に下げてでも、本当の色情報を入手しようとしている。
ローパスフィルターレス 擬似的な(誤差のある)色情報を得てでも、全画素の解像度を得ようとしている。

貴方はどちらを選びますか?


高画素撮像素子の場合、なぜローパスフィルターは不要なのか?


以上でローパスフィルターの必要性は十分ご理解頂いたと思うのですが、ついでになぜ高画素撮像素子の場合ローパスフィルターレスのカメラが多いのかについてもお話ししておきます。

その理由は、高画素撮像素子の場合、レンズの解像度が撮像素子の解像度を下回るため、実質的にボケた画像が撮像素子に照射される事になり、ローパスフィルターが不要になる、と言えばすんなりご理解頂けるのではないでしょうか。

ですので、もし解像度の高い非常に優秀なレンズを使えば、高解像度の撮像素子であっても、ローパスフィルターレスであれば偽色やモアレが発生し易いという訳です。

別の言い方をすると、偽色やモアレが発生し易いレンズとは、優秀なレンズだという事です。

ついでにお話ししておくと、偽色やモアレはレンズの解像度の高い中央部で多く発生し、解像度の落ちる端部では発生し難いという特徴があります。


偽色は画像の中心部で発生し易い

大して重要ではありませんが、覚えておいても損はないでしょう。


画質の違い


さてここまでさんざんローパスフィルターは必要だと述べてきましたが、だったらローパスフィルターの有無による画像の違いを見せてみろ、と言われる事でしょう。

ですが、申し訳ありません。

前述の偽色やモアレの発生がない場合は、見比べてもその違いは殆ど分からないのです。

だったら解像度の高いローパスフィルターレスでいいだろうと言われれば、ちょっと待ってください。

ご存知の様に、ローパスフィルターレスを積極的に採用しているのはSONYです。

実際2400万画素のα7 IIIにおいても、複屈折板を1枚削除しているほどです。

それに対してキヤノンは、ローパスフィルターは必要だとの思想から、5000万画素のEOS 5Dsにもローパスフィルターを搭載しているほどです。

この2社の画質を比べると、甚だ情緒的な見解で恐縮ですが、キヤノン機の画質の方が自然で滑らかな気がするのです。


キヤノンのEOS R + RF50mm F1.2 L USMの撮影サンプル


ソニーのα7R III+FE 50mm F4 ZAの撮影サンプル

画質の差は光学系や画像処理エンジンの差等も含まれますし、ましてや見た目の画質を数値で比べられる訳でもありませんが、少なくとも本書はローパスフィルターはあった方が画質は良いと感じている次第です。

また近頃、フィルムカメラが流行(はや)っています。

この理由は、単なる懐古趣味や、デジタル機器に対するアンチテーゼ、或いは物珍しさが大多数かもしれませんが、もしかしたら中には一切偽色も補完もない純粋な色見の良さに気が付いた方がいらっしゃるのかもしれません。


まとめ


それではまとめです。

1. べイヤー配列とは、本来なら3枚必要な撮像素子を1枚にするために考えられたカラーフィルターの配列である。

2. べイヤー配列の撮像素子において、全画素にフルカラーの情報を持たせるためには、補間処理が必要である。

3. ただしローパスフィルターを搭載すれば、2x2の4素子に同じ光(色)を照射する事で、解像度は1/4に落ちるものの、補完無しで正確な色情報を把握できる。

4. ローパスフィルターとは、解像度を劣化させる物と理解されているが、むしろ真の色を再現させるための物と理解すべきである。

5. キヤノンはローパスフィルターは常に有効と判断しているが、本書もそれに同感である


少々詰めが甘い気もしますが、本書がお役に立てば幸いです。





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