大光量ストロボに匹敵する
コンデジ内蔵ストロボの使い方

2019/8:発行

はじめに


スマートフォン(以降スマホと呼ぶ)の普及に伴い、一気に影が薄くなってしまったコンパクトデジタルカメラ。


スマホに押されながらも、まだまだ優位性のあるコンパクトデジタルカメラ

ですが、スマホがどうしても搭載できない大きめの撮像素子、あるいは高倍率光学ズーム、ストロボ、ファインダー、可変式のモニター等の搭載によって、完全にその座を明け渡した訳ではありません。

そんなコンパクトデジタルカメラ(以降コンデジと呼ぶ)において、今回は内蔵ストロボについてお話させて頂きたいと思います。


コンデジ(写真はRX100V)のストロボはめっぽう小さい

ご存知の様に、コンデジに内蔵されているストロボは非常に小型ですので、下の様な大光量ストロボと比べれば、誰しも大した事はできないと思うのも無理からぬ事でしょう。


SONYの電波式増灯可能大光量ストロボ(HVL-F60RM)

ですが使い方さえ知れば、大光量ストロボに匹敵する性能を発揮できるのです。

それが一体どんな方法なのか、本書をお読み頂いた方だけに、そっとお教えしたいと思います。

もし手元にコンデジをお持ちの方がいらっしゃいましたら、是非試して頂ければと思います。


ガイドナンバー


それでは先ず、ストロボに関して余り詳しくない方のために、ストロボの光量に関してご説明します。

当然ながら大きなストロボほど光量は大きくて、遠くまで明るく照射する事が可能です。

その光量を表す指標をガイドナンバー(以降GNと呼ぶ)と呼びます。

ですので、大きなストロボになるとGNは増え、小さなストロボほどGNは小さくなります。

具体的には一般的に大光量ストロボと呼ばれている物のGNは60程度で、中光量ストロボで40前後、小光量ストロボで20以下といった感じです。


キヤノンのストロボ軍団(左からGN60、GN43、GN32、GN27、GN9))

それではコンデジに内蔵されたストロボのGNはどれくらいかと言うと、たったの5程度しかないのです。

そう聞くと、殆ど役に立たないと思われるかもしれませんが、実はそうでもないのです。


ガイドナンバーと到達距離の関係


先ほどGNの話をさせて頂きましたが、これは単に光量の大きさを表すだけではなく、実はかなり優れものの数値なのです。

何とこのGNを絞り値で割ると、ストロボの光がどれくらい到達するかが分かるのです。

ですので、もしGNが60で、その時の絞り値がF4.0であれば、以下の式の様にストロボの光は15m先まで届くのです。

60(GN)÷4(絞り)=15(到達距離)

一方GNが5で、その時の絞り値がF4.0であれば、ストロボの光は以下の式の様にたったの1.25mしか届かないのです。

5(GN)÷4(絞り)=1.25(到達距離)

そう聞くと、ますますコンデジのストロボは役に立たない様に思ってしまいますが、まだまだ話はこれからです。


ISO感度を変えるとどうなるか?


先ほどコンデジに内蔵されたストロボのGNは5程度だとお伝えしましたが、これはISO感度が100の場合です。

ではISO感度を1段上げて200にしたらGNはどうなるのでしょう?

何と、1.4倍(正確には√2倍)の7(=5×1.4)になるのです。

これは結構おいしい話ではないでしょうか?

ですので、更にISO感度を2段上げて400にしたら、GNは2倍の10になるのです。

これを表にすると以下の様になり、ISO感度を6400にまで上げたらGNは40にもなり、その時の絞り値がF4.0であれば、コンデジのストロボで10mも届くのです。

ISO感度 倍数 コンデジストロボのGN F4.0の到達距離
100 1 5 1.25m
200 1.4 7 1.75m
400 2 10 2.5m
800 2.8 14 3.5m
1600 4 20 5m
3200 5.6 28 7m
6400 8 40 10m

いたずらにISO感度を増やすと、その分ノイズが増えるのですが、それでもISO1600程度(到達距離5m)なら問題なく使用できます。

ですので、夜間の撮影でストロボの光が弱いなと思ったら、ISO感度を上げてやれば良いのです。

もっと具体的に言えば、夜間ストロボで人物撮影する際は、ISO感度を1600程度に上げてストロボの発光量をオートにしておけば、人物は問題なく撮影できると言えます。


小さなストロボでもISO感度を上げればGNを増やす事ができる

これでコンデジのストロボも、まんざら捨てたものではないのをご理解頂けたと思います。


ISO感度を上げられるのは夜間だけ


さて、先ほどISO感度を大きくすればいくらでもGNを上げられるとお伝えしました。

ですが、これには一つ条件があるのです。

それは、あくまでも周囲が暗い場合にしか使えないという事です。

何故ならば、昼間にISO感度をどんどん上げると、画像がどんどん白くなるので、その分絞りを絞る事になります。

このため、GNが増えても、絞り値も増えるため、結局到達距離は延びないのです。

例えば先ほどの表の様にISO感度を1600に上げてGNを20に上げたとしても、適正露出にするためには絞りをF4.0からF16に絞らなければならず、その場合のストロボ光の到達距離は以下の様に1.25mにしかならないのです。

20(GN)÷16(絞り)=1.25(到達距離)

ですので、ISO感度を上げて到達距離を延ばせるのは、ISO感度を上げても周囲が明るくなり過ぎない程度に暗くなくてはいけないという事です。

だったらコンデジのストロボは夜しか使えないのかと言われれば、もちろん応えはNOです。

という訳で次は、昼間に大光量ストロボに匹敵するコンデジ内蔵ストロボの使い方を、じっくりお話させて頂ければと思います。

なお、ここからまた少し長文になります事、ご容赦願います。


ストロボを昼間に使ったらどうなるか


さて昼間にストロボを使う場合とは、どん状況が考えられますでしょうか?

代表的なのは、逆光で人物を撮りたい場合でしょう。

逆光の場合、背景に露出を合わせると人物は暗くなり、人物に露出を合わせると背景が明るくなって白く飛んでしまいます。

こんな時にストロボ光を人物に照射すれば、人物と背景をバランス良く写す事ができます。


これを日中シンクロと呼び、フィルムカメラ時代は結構難易度の高い撮影でしたが、今は撮ったその場で画像が確認できる事もあり、その敷居もかなり低くなってきました。

とは言いながらも、そのためにはそれなりに大光量ストロボを使わないとダメだと思われる事でしょう。

何しろ日中の光源は太陽ですので、そんじょそこらのストロボの光で太刀打ちできる訳がありません。

でも本当にそうなのでしょうか?

という訳で、昼間にデジタル一眼に大型ストロボを付けた場合と、コンデジのストロボを使った場合で、どちらがより遠くまで光が届くか調べてみたいと思います。


大光量ストロボを使った日中シンクロ


さてそれでは先ず、デジタル一眼に大光量ストロボを付けて、日中シンクロをやってみましょう。

日中シンクロとは、昼間にストロボを発光して撮影する事を指します。

ここでは具体性を持たせるため、売れ筋のフルサイズミラーレス一眼であるソニーのα7シリーズに、専用ストロボのHVL-F60RMを使った場合を考えてみたいと思います。


ソニーのα7R IIと電波式大光量ストロボHVL-F60RM

α7シリーズのストロボ同調速度は1/250秒ですので、例えばこのシャッター速度で逆光の人物を撮影したらISO100で絞り値がF5.6になったとします。

ちなみにストロボ同調速度とは、ストロボが使える最高シャッター速度で、これを超えるのシャッター速度ではストロボを使えない事を意味します。

この状態でGN60のストロボをフル発光させて、どこまで光が到達するか計算してみます。

既にお伝えした様にストロボ光の到達距離は、GNを絞り値で割れば求められます。

60(GN)÷5.6(絞り)=11m(到達距離)

すると上の式の様に、11mも届きます。

すなわち11m離れた被写体でも、逆光の補正が可能という事です。

これを表にすると以下の様になります。

デジカメ ストロボ ガイド
ナンバー
ISO シャッター
速度
絞り 到達距離
α7 III HVL-F60RM GN60 100 1/250 F5.6 11m
逆光時(EV13)におけるストロボ光の到達距離

ここまでは予想通りの結果と言えます。


フルサイズデジカメのハイスピードシンクロ


上記の場合、シャッター速度がストロボ同調速度の1/250秒ですので、次にハイスピードシンクロを行なうとどうなるか調べてみましょう。

ハイスピードシンクロとは、シャッター速度をストロボ同調速度より早くして撮影するテクニックです。



これによってシャッター速度を速くできるので、絞りを開けて背景をぼかす事が可能になります。

ただしこの場合、ストロボを高速で連続発光させる必要があるため、ストロボの光量は大幅に低下します。

具体的には、例えばソニーの大光量ストロボであるHVL-F60RMにおいては、シャッター速度1/500秒でハイスピードシンクロを行なうとGNは11.3にまで低下し、シャッター速度1/1000秒でGNは8.0になります。

これを先ほどの表に入れて計算すると、ストロボ光の到達距離は以下の様になります。

デジカメ ストロボ ガイド
ナンバー
ISO シャッター
速度
絞り 到達距離
α7 III HVL-F60RM GN60 100 1/250 F5.6 11m
α7 III HVL-F60RM GN11.8 100 1/500 F4.0 3.0m
α7 III HVL-F60RM GN8.4 100 1/1000 F2.8 3.0m
α7 III HVL-F60RM GN5.9 100 1/1000 F2.0 3.0m
逆光時(EV13)におけるストロボ光の到達距離

これをご覧頂きます様に、ストロボ光の到達距離は先ほどの11mから3mへと一気に短くなると共に、シャッター速度を速くして絞りを開けても、到達距離は全く変わらない事をご理解頂ければと思います。


コンデジの日中シンクロ


さて、お待たせしました。

それではいよいよコンデジの内蔵ストロボを使って、日中シンクロを行なってみましょう。

一般的なコンデジのストロボのGNは、既にお伝えしました様にたった5です。

今まではGN60でしたので、それと比べると飛んでもなく貧弱です。

ただし、ここでもう一つ重要な事をお伝えしたいと思います。

コンデジのシャッターは、レンズ交換式デジカメ(一眼レフやミラーレス一眼)が採用しているフォーカルプレーンシャッターとは異なり、レンズシャッターを採用しているという事です。


レンズシャッターは、レンズ中央の穴が瞬間的に開いたり閉じたりする

そしてこのレンズシャッターは、ストロボの全速同調が可能なのです。

全速同調とは、全シャッター速度においてストロボをフル発光する事が可能という事です。

ではそのレンズシャッターのシャッター速度を変えて、先ほどと同じ条件で日中シンクロを行ない、ストロボ光の到達距離を調べてみたいと思います。

使用するデジカメは、同じソニーの1インチサイズ撮像素子を搭載したプレミアムコンパクトDXC-RX100Vです。


レンズシャッターを搭載したソニーのRX100V

その結果が以下の表です。

デジカメ ストロボ ガイド
ナンバー
ISO シャッター
速度
絞り 到達距離
DXC-RX100V 内蔵 GN5 100 1/250 F5.6 1m
DXC-RX100V 内蔵 GN5 100 1/500 F4.0 1.5m
DXC-RX100V 内蔵 GN5 100 1/1000 F2.8 2.1m
DXC-RX100V 内蔵 GN5 100 1/2000 F2.0 3m
GN5 100 1/3000 F1.8 3.3m
快晴(EV15)時における日中シンクロの撮影データ

いかがでしょうか?

さすがに大光量ストロボがフル発光できる1/250秒では到底かないませんが、シャッター速度1/2000秒でしたら大型ストロボの到達距離の3mに追い付くのです。

何だ、たった3mかと思われるかもしれませんが、ストロボの光が3mも届けば、殆どの人物撮影に使う事が可能です。

なおRX100Vのシャッター速度は1/2000秒までですが、1/3000秒が可能なコンデジならば絞りF1.8で3.3mまで届くのです。

いずれにしろ、昼間の場合でしたら、ISO感度は上げずに、シャッター速度を上げて、更に絞りを開ける事によって、遠くまでストロボの光が届くのです。

そう言うとかなり難しそうですが、コンデジの場合、露出モードを絞り優先AEにして、絞りを開放に設定してストロボを発光するだけで済みます。

コンデジの小さなストロボでも、こんなにも役に立ちますので、積極的に人物撮影に使う事をお勧めします。


日中シンクロはストロボを僅かに光らせるのがコツ

なお昼間と言えどもストロボの光が強いと被写体が不自然に見えますので、僅かに光らせるのがコツです。


まとめ


それではまとめです。

1. コンデジを使って夜間のストロボ撮影を行う場合、ISO感度を上げればストロボ光の到達距離を延ばす事ができる。

2. コンデジを使って日中シンクロ撮影を行う場合、絞りを開ければストロボ光の到達距離を延ばす事ができる。

3.日中シンクロは、ストロボを発光しているかどうか分からない程度がベストなので、コンデジの内蔵ストロボは丁度良い明るさと言える。


本書がお役に立てば幸いです。




大光量ストロボに匹敵するコンデジ内蔵ストロボの使い方





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